ここで書かれている内容は一般論です。具体的な質問があれば、当社にお尋ねください。ここで書かれている内容だけを元に意思決定されることは避けてください。

Q1. 米国に進出する計画があります。法律面で最も注意することは何でしょうか?

A1. 米国で外国企業が事業を行う場合最も注意しなければならないのは、次の2点です:
  1. いかに負債や損害の賠償義務を最小化するか、および日本に損害が及ばないようにするかーー

  2. いかに米国および日本で、米事業に関する税負担を最小化するかーー。
この2点を中心に、どのような形で米国に進出するか決めるのが一般的です。どちらの要素に重点を置くかは、各会社の判断です。


ページトップへ


Q2. 中小企業ですが、米国進出に際してビジネスの面で一番大切なことは何ですか?

A2. 米国で形式上会社を興すことは簡単です。しかし、ビジネスを行うに際して一番大切なことは、事業計画(ビジネスプラン)がどれだけしっかりと固まっているかーーという点です。

事業計画は、製品やサービスの内容やその市場、自社の競争力、販路などビジネスのコアになる部分の分析や考察が中心にないます。それ以外でも誰がどの程度投資するのか、必要な資産、パートナーやアライアンスの必要性、雇用の規模、ストックオプションなど現金以外の報酬の有無、福利厚生の必要性、財務・収益予測、ビジネス上のリスク、知的財産権、ビジネスを行う州、事業の将来性・最終目標など、各種の検討項目があります。

また、これらのチェック項目を総合的に判断して米国における法人形態を選ぶべきです。米国では設立する法人の形態に関して幾つかの選択肢がありますが、それぞれの利点と欠点を見極めなければなりません。場合によっては複数の法人を組み合わせるメリットもあります。


ページトップへ


Q3. 米国進出にあたり、支店を出すか、あるいは現地法人を出すか考えています。判断材料はありますか?

A3. 少なくとも損害賠償と税務の面を考える必要があります。
  1. 損害賠償

    訴訟社会と言われる米国では、ささいな事件や事故が発生した場合でも訴訟が頻繁に起きます。支社で事件や事故が発生した場合、または支社が米国内で販売した物品に関係して問題が起きた場合、一般的に被告は本社となります。それは本社と支社は別々の法人ではないためです。つまり裁判の結果として損害賠償義務が発生した場合、その支払いは日本の本社の責任となります。

    また日本にいる会社関係者も、場合によっては裁判当事者として証言を要求されたり、出廷を求められることになります。また日本にある書類を裁判の証拠として英語に翻訳の上、提出を要求される場合もあります。こうしたことを嫌がる企業経営者は多いと思われます。

    米国での企業活動のリスクが高い場合、支社より現地法人が明らかに有利でしょう。また新たに米市場に進出する外国企業にとって、米国内におけるリスクレベルのアセスメント(査定)は難しいといえます。ですから一般的に多くの外国企業はリスクのレベルにかかわらず、損害賠償義務を回避する目的だけで、米国に進出する際に支社を選ばず、現法を選択します。

    現法の場合、米国内での損害賠償はあくまで現法の責任で、一般的に日本の親会社の賠償責任はありません。

  2. 税務

    支社の場合、基本的に米国内で発生した利益が米国で課税対象となります。米国内で利益が出る場合、税額は支社も現地法人もほぼ同じです。米国の税法では、支社の場合も現法の場合も最終的な税額がほぼ同じになるようになっています。逆にいえば、その目的を達成するため、外国法人の米国支社に関係する税法はとても複雑です。

    一方米国に支社があり、米国での事業が赤字の場合、本社はその赤字を日本で直接使うことができます。つまり日本国内の事業が黒字の場合、一般的に米国の赤字と相殺することができるのです。米国現地法人の場合、赤字は次年度以降に繰越ができ、将来黒字となった場合税金を減額できます。しかし日本の親会社は基本的に現法の赤字を使うことは出来ません。

    日本の親会社と米国現法(子会社)が取引を行った場合、米国の移転価格税制の対象になり、両社間の取引価格が正当なものであったか書類をそろえる必要があります。また移転価格に関して、税務査察の対象になります。しかし、本社―支社間で取引を行った場合は、一般的に移転価格税制は無関係です。しかし、本社―支社間の取引等に関連した国際的な会計上の処理は簡単ではなく、経験豊かな会計担当者が必要となります。

    米国に支社がある場合、納税者は日本の本社で、納税申告書のなかには本社の財務状況も記載しなければなりません。結果として、納税申告書の作成は支社のほうが現法よりかなり手間がかかり、作成コストも高くなります。


ページトップへ


Q4. 米国に株式会社を設立したいと思いますが、どのようなインフォメーションを準備しなければなりませんか?

A4. 会社設立に際して準備しなければならないインフォメーション主に以下の通りです:

  1. 会社名
    株式会社の場合はCorporation, Company, Incorporated, Limited, Corp., Inc., Ltd. のいずれかを使わなければならない。

  2. 株主
    各株主の名前と所在地。

  3. 各株主による会社設立時の投資額

  4. 会社が発行できる株式の最高限度数と株の種類
    何株でも可。

  5. 株の額面
    無額面でも可。

  6. 取締役の名前と住所(あるいは所属先の会社所在地)

  7. オフィサーの名前
    会社の役員(オフィサー)として通常次の役職がある:社長(president)、副社長(vice president)、書記役(secretary)、収入役(treasurer)。1人が複数の役職を兼任可。必要であればCEO、COO、CFOなどの肩書き同時に設けてもよい。

  8. 会社の年度末
    一般的には12月31日。3月31日やその他の日でも可。

  9. 本格的にビジネスを開始する予定日

  10. 会社設立から1年以内に雇用が予定される従業員の数
    雇用の予定がなければ、0でも構わない。

  11. 株主総会の時期
    何月に年次の株主総会を開催するか決める必要あり。株主総会は書面だけで議決することが可能で、実際に株主が一堂に会する必要はない。

  12. 会社オフィスの所在地
    米国内に会社の所在地が必要。すくなくとも会社として郵便を受け取ることができる必要がある。(これに関しては当社の「オフィスサービス」をご利用いただけます。)

  13. 登録代理人(Registered agent)
    設立する州に会社の登録代理人が必要。この登録代理人は個人または企業で、その職務は州当局からの公式連絡(郵便)を受け取ること。そのような連絡が来る事はめったにあることではないが、法律で会社の登録代理人が州内に必要とされている。(これに関しては当社の「オフィスサービス」をご利用いただけます。)


ページトップへ


Q5. 米国で株式会社を設立する際、具体的にはどのような手続きが必要ですか?

A5. 通常は設立する州の州務局(Department of State)あるいはその他の所管官庁(例えばニュージャージー州の場合は州務局ではなく、Division of Revenue)に所定の書類を提出します。法人設立に際して州務局に支払わなければならない費用は州によって異なります。法人設立はオンラインやFaxでできてる州もあります。

最も簡単に会社を設立したい場合、例えば、ワシントン州には『Application to Form a Profit Corporation』という所定のフォーム(1ページ)があり、それに必要事項を記入し、費用$175を支払うだけで、書類上は株式会社が興せます。フォームには、会社名、設立発起人の名と連絡先、登録代理人の名と連絡先などの記入のほか、株式の種類の部分で普通株式/優先株式の有無を報告する必要があります。ニューヨーク州にも同様のフォームがあります。

法人設立後は、自治体レベルと連邦レベルの必要手続きを行います。また付属定款(Bylaws)などの法人の内部書類も準備する必要があります。事業登録(ビジネスライセンス)の要不要は自治体によって異なります。例えばワシントン州の場合は、州ライセンス局に対し『Master License』の申請をしなければなりません。またシアトル市内でビジネスを行う場合は、州のライセンスとは別に市の『Business License』の申請をしなければなりません。

連邦レベルでは少なくともIRS(米国税庁)に対し納税者番号(Employer Identification Number。EIN)取得のための申請をしなければなりません。

また年次では、通常自治体から必要な書類が自動的に送られてきますが、会社維持費を毎年(州によっては隔年)支払うなど、しなくてはならないことがあります。ワシントン州の会社の場合、州レベルでの会社維持費は年$59。


ページトップへ


Q6. 米国に支店を設立したいと思いますが、どのような手続きが必要になりますか?

A6. 支店設立に際しての手続きは次の通りです:

支社を設立するには、事業を行う州で事業許可を申請しなければなりません。申請者は日本の本社となります。
例えばニューヨーク州の場合、事業許可申請書の中には少なくとも以下のことを記載しなければなりません:

――会社名
――州内で使用する商標(もしあれば)
――本社の設立登録地および設立年月日
――事業目的
――支社の所在地

同州の場合、現地法人の設立許可申請書に記載する内容と、支社設立のための事業許可申請書の内容はほとんど同じです。また申請料金もほぼ同じ(事業許可申請書のほうが$100高いだけ)。


ページトップへ


Q7. アメリカにはいくつかの種類の会社形態があると聞きますが、どの形態が好ましいでしょうか?

A7. アメリカには株式会社(コーポレーション)、パートナーシップ、それにコーポレーションとパートナーシップの良いところを組み合わせた“ハイブリッド”と呼ばれる会社形態があります。

ハイブリッドの中にはリミテッド・ライアビリティー・コーポレーション(LLC)とリミテッド・ライアビリティー・パートナーシップ(LLP)があります。また株式会社のなかにもCコーポレーション(通常の会社)とSコーポレーション(主に小規模な会社)があり、Sコーポレーションもハイブリッドの中に入れることができます。パートナーシップにはジェネラル・パートナーシップ(合名会社)とリミテッド・パートナーシップ(合資会社)があります。

一般的に会社形態を選定する場合注意するのは、負債や損害の賠償義務と税金の2点です。いかに負債や損害の賠償義務が投資者に及ばないようにするかーーと言う点と、いかに税金の2重払いを防ぐかーーと言う点です。株式会社の場合、株主は有限責任で、投資額以上の損害賠償責任は通常ありませんが、税金面では、会社が生み出した利益に対し会社レベルで一度税金を払い、株主のレベルで会社から受け取った配当に対しもう一度税金を払うことになります。

一方パートナーシップの場合、一般的にパートナー(投資者・オーナー)は無限責任で、パートナーシップで発生した債務を個人的に負担しなければなりません(有限責任のリミテッド・パートナーを除く)。しかしパートナーシップは課税対象にならない組織で、パートナーシップが生み出した利益に対する税金は、パートナーのレベルで一度払うだけになります。

ハイブリッドの場合、投資者(Sコーポレーションの場合は株主、LLCの場合はメンバー、LLPの場合はパートナー)は有限責任で、かつ税金は投資者のレベルで一度だけです。株式会社とパートナーシップの双方の長所を享受することが出来るわけです。

近年アメリカで設立される法人の7割以上が、LLCまたはLLPの形態を取ると言われています。


ページトップへ


Q8. IT系のベンチャー企業を米国で立ち上げようと考えています。どの会社形態が好ましいでしょうか?

A8. ベンチャー企業の場合、いくつか注意すべき点があります。例えば、ベンチャー企業の場合(i) 最終的に株式上場を目指す場合が多い (ii) ベンチャーキャピタルから投資を受ける場合が多い (iii) 従業員にストックオプションを支給する必要があるーー。

LLCとLLPは株式を発行しないので、上場は出来ません。またSコーポレーションは株主の数が75人に制限されている上、法人や外国人は株主になれないので、これも上場はできません。ハイブリッドから通常の株式会社に組織変更することは可能ですが、法的手続きを踏まなければなりません。

こうしたことからベンチャーキャピタルはハイブリッドを敬遠する傾向があります。また、ベンチャーキャピタルは節税目的で投資しているのではないため、ハイブリッドの税金面での有利さをあまり評価しません。逆にハイブリッドの場合、投資者に税金関係の書類を毎年提出しなければならず、ベンチャーキャピタルは受け取った税金関係のインフォメーションをベンチャーキャピタル自身の税務申告に記入しなければなりません。そうしたペーパーワークが面倒だと考えるベンチャーキャピタルは少なくありません。加えてSコーポレーションの場合、発行できるのが普通株式だけで、ベンチャーキャピタルが好む優先株式は発行できません。

LLPやLLCの場合、ストックオプションは発行できません。ただし、そのほかのインセンティブ(例えばファントム・ストック)を作ることは可能です。Sコーポレーションはストックオプションの発行は可能です。

総合的にみれば、将来成長が見込まれるベンチャーの場合、通常の株式会社(Cコーポレーション)が無難に思われます。ただし、ベンチャーの目的によってはケースバイケースでハイブリッドが有利な場合も十分考えられますので、専門家と話し合ってから決めることをお勧めします。


ページトップへ


Q9. 米国のベンチャーキャピタルからの投資を受けたいと思っています。ベンチャーキャピタルに自社の事業計画(ビジネス・プラン)を送りたいと思いますが、注意点はありますか?

A9. ベンチャーキャピタルが投資(ファンディング)を求める会社からのビジネス・プランを受け取った際、注意を払うのはを(1)社内に人材がそろっているかどうか(2)事業に成長性があるかどうか(3)ファンディングの条件が合理的であるかどうかーーという点です。ですから以下のような場合、ベンチャーキャピタルの関心を引くのは難しいと言えます。

A. 取締役やトップマネージメントが脆弱(経験不足、業界内で無名、目的意識の欠如等)。

B. 従業員のモチベーションを生み出すシステム(ストック・オプション等)が社内に存在しない。

C. 会社組織が非効率的、会社組織上の問題が顕在。

D. ターゲットにしている市場が小さい、また市場参入への時間あるいは市場そのものの時間が限られている。

E. 市場参入への障害が大きい(市場化のために要求される技術が高難度、競争が激しい等)

F. 必要としている投資が少な過ぎる、あるいは多過ぎる。

G. ベンチャーキャピタルが専門にしている業界以外の会社である。

H. 会社の時価評価額が合理的でない。

I. 投資の条件が複雑過ぎる。

J. ベンチャーキャピタルに守秘義務契約書(Non-disclosure agreement)に署名することを要求する。

K. ビジネス・プランが読みにくい(誤字、脱字、文法ミス、文章力が欠如)。


ページトップへ


Q10. 米国で自社商品の販売を考えていますが、販売はエージェント(代理人または代理店)を通じて行いたいと考えています。気をつける点はありますか?

A10. エージェントを使って商品を販売するのは、米国内に会社を作ったり社員を雇ったりする必要がないので、時間もコストもかからず、効率的な米国進出のやり方の一つです。

まず気をつけなければならないのは、エージェントとの契約です。少なくとも「エージェント契約」あるいは「販売契約」が必要になります。また契約の中で通常特に注意しなければならないのは(1)販売のテリトリー(2)独占的販売権の有無(3)エージェントへの報酬の算定(4)販売価格の設定(5)商品販売後のアフターケアの方法と関連する費用の負担(6)契約更新や解除の方法(7)当事者間で問題が発生した際の解決方法ーーをどうするかということです。

また法律面からみたエージェントととの関係にも注意が必要です。エージェントには大きく分けて「インデペンデント・エージェント(独立請負人)」と「ディペンデント・エージェント(従属請負人)」の2種類があります。もしディペンデント・エージェントが貴社のエージェントとしての業務を行っている最中、何らかの問題を引き起こせば、貴社に損害賠償責任が発生する恐れがあります。インデペンデント・エージェントの場合、一般的にそのようなことはありません。

一般的にディペンデント・エージェントとインデペンデント・エージェントの違いは、会社側がエージェントを“コントロール”しているかどうかーーという点です。しかしその境界線は多くの場合不明瞭で、簡単に判断はできません。ただ一般的に以下のような場合、ディペンデント・エージェントと判断される可能性が高くなります。(1)貴社がエージェントの日々の行動を細かく指示する(2)エージェントは貴社の仕事しかしていない(3)貴社名の名刺を持たせている(4)貴社が支給したオフィスやオフィス機器を使用しているーー。つまりエージェントが貴社の「社員」としての境遇に近くなればなるだけ、ディペンデント・エージェントと判断される可能性が高くなるわけです。契約書の中で「あなたは当社のインデペンデント・エージェントです」と書いても、実態が伴わなければあまり意味がありません。

国際税務の面でみると、ディペンデント・エージェントを持つと貴社は米国内で発生した利益に対し、米国で納税義務が発生する恐れがあります。この際エージェントが貴社の名代として契約を交渉、そして調印できるかどうかがディペンデント・エージェントであるかないかを左右し、納税義務が発生するかどうかに大きくかかわってきます。

エージェントが“代理人”であっても“代理店”であっても、上記の解説は同様に当てはまります。


ページトップへ


Q11. アメリカでの起業は個人でもできますか?


A11. 会社を作ることは基本的に誰でもできます。設立に最低限必要な書類は簡単なもので、作成に大きな手間はかかりません。場合によっては設立のための手続きは1、2日で完了します。

一方会社を作ることとは別に、建築家や美容師など職業によっては、開業に当たり個人の資格が必要な場合があります。またベッド&ブレックファースト(B&B)や託児所(チャイルドケアセンター)などビジネスによっては、開業に当たり会社として特別なライセンスの取得が必要になる場合があります。

渡米して起業する場合、ビザの種類によっては起業することに障害が発生する恐れのあるものもありますので、注意が必要です。
© International Incubation All Rights Reserved.